100年の老舗の灯、血縁のない24歳が事業承継~
「本物の技術、本物の思いで」
カンブリア宮殿出演
吉開かまぼこ(福岡県みやま市)林田茉優社長(28)
取材 元西日本新聞記者 水山真人
24歳という若さで血縁関係のない創業100年を超える老舗かまぼこ会社の4代目社長を引き継ぐことになった林田茉優さん(28)。中学高校時代はブラスバンドに打ち込み、指導者まっしぐらだった。転機になったのは、世の中の多くの仕事を知りたいと進んだ大学で受けた企業研究の講座。中小企業の後継者問題を調べる中、無添加製造の高い技術を持ちながら廃業寸前に追い込まれていた「吉開のかまぼこ」(福岡県みやま市)を知る。「本物を残したい」と衝動に突き動かされて支援を続けているうちに、自身が受け継ぐ展開に。4期目を終え、再建を軌道に乗せつつある林田さんに、その情熱と、事業承継のリアルを聞いた。
🎤 第13回「解決市場」 登壇直前特別インタビュー
ブラバン少女から大学で企業研究へ
「中学高校時代は、ブラスバンド一色の生活でした。高校は日本一を争うような強豪校。指導者になる気満々でライセンスも取っていました。でも、遠征に行く先々で『世の中にはいろんな仕事があるんだな』と気づかされる機会が多くて。将来を決める前に、どんな会社、仕事の大人がいるのか見たいと思い、福岡大学のオープンキャンパスで知った企業研究の『ベンチャー起業論』という講座に飛び込みました」「その講座は『人生の経営者になる』という理念を掲げていて、毎週いろんな経営者の経験談や失敗談を聞いたり、放課後に企業の課題解決型インターンに行ったり。そこで初めて、中小企業が抱える課題にアンテナが向くようになったんです。
4年生でのテーマを考えている時でした。先生から東京の『岡野工業』のことを聞いたんです。糖尿病患者の子どもたちのために世界一細い、痛くない注射針を作っている素晴らしい会社です。その後すぐに、後継者不在を理由に廃業するというニュースが流れたんです。驚いて、手紙を書いて実際にお会いしに行ったら、岡野さんは『技術承継は短時間でできるものではない。長い時間をかけて人を育てることが重要なんだ』と仰っていました。岡野さんは当時85歳で、心臓病もありました。会社の承継は、すでに手遅れの状況でした。その時『こういう素晴らしい技術がなくなっていった時、日本の未来、私たちの生活はどうなってしまうんだろう』と思い、後継ぎ問題に興味を持っていきました。調べていくと、日本の中小企業の半数が後継者未定であることや、廃業する会社のうち半分以上が黒字であるにもかかわらず、後継者がいないことを理由に廃業を選んでいるという実態を知ったんです。そうして、大学最後の学びのテーマに、後継問題のプロジェクトを発足しました」
1%の「本物」との出会い、3年間の支援
「始めは、後継ぎのいない会社を探すため、手当たり次第に50社ほどの社長さんにアポイントを取りました。『あなたの次はどう考えていますか』と聞くと、何度も『俺に早く死ねと言うのか』と言われました。社長は、それくらい生涯現役でエネルギッシュな方が多い。でも、自分がいなくなった後の出口を考えていない社長が多いから、後継ぎ問題が溢れ返って社会課題となるほどのボリュームになっているんだと感じました」「そんな中で出会ったのが、吉開かまぼこでした。すでに高齢による体力の限界で休業して1年。それでも、吉開さんのもとには復活を望むお手紙や電話がずっと寄せられていたんです。さらに聞くと、ここのかまぼこは業界で1%もないと言われる『完全無添加』。8年も研究を重ねて完成させたと聞いた時『この職人魂はすごい』と。私は当時、卒業後は少なくとも自分が誇りを持てる働き方をしたいと思っていました。
吉開さんの本物志向に触れて『何か役に立ちたい』という衝動に駆られ、手を握って『復活に向けて手伝わせてください』と言ってました。『吉開かまぼこを復活させようぜプロジェクト』はそこから始まり、大学4年生の1年と、社会人になってからの2年、計3年間続けました」「すでに休業中でもあり、支援は苦戦しました。それでも、大学4年生の終わりに活動がメディアに取り上げられ、関西の食品会社が支援に手を上げてくださったんです。そういう急展開を見た時、『奇跡を見届けよう』と思ったんです。みやま市に何度も何度も足を運んで吉開さんご夫婦に会うと素敵なお人柄で、物づくりに対する思いも強くて、会って話を聞くのが楽しくてたまりませんでした。
みやまは福岡市内から電車で片道1時間半、往復3時間もかかるけれど、苦じゃない。第2の実家に帰るような感覚でした。行動が先行して、思いが一層熱くなってく。自分の給料を交通費につぎ込んで。やりたくてやっているから、絶対人生のプラスになる、それだけの思いでした」
「死なないならいいか」と継承
「ようやく支援先が見つかり、調印式の1週間前でした。その支援先から『やはり思い入れのある君がやるべきだ』と言われたんです。おそらく、100年以上の会社をやってみないかと言われる機会は二度もない。そう思った時、逆に断る理由の方が分からなくなりました。若さの強みというか、大して失うようなものも抱えていなかったので、『死なないならいいか』と。その感覚だけで、1週間後にハンコを押して4代目になりました。
こうして4期続けてこられたのは、大学時代に出会った経営者の方々の応援が本当に大きいです。困ったらすぐ電話して相談できる、第2、第3のお父さんお母さんのような縁。学生の時から大好きと思えて尊敬する方々と出会った時は、『一生のご縁にしたい』と、ビジネスライクなお付き合いはしませんでした。どれだけすごい方でも学生の時に出会ったご縁って対等じゃないですか? 私は雇われてるわけでもないし。どこまで親友になれるかというコミュニケーションを意識してきました」
経営者はバトンを渡す責任
「よく講演会で『私みたいな人がいたらいいのに』と言われます。でも、経営者の皆さんに言いたいのは、『バトンを渡せるかどうかは、あなたの問題ですよ』ということです。自分の目の前に50歳も年下で、経験もない若者が現れた時、あなたはバトンを渡せますか? 会社は、お客様とか、支えてくれてる社員さんとか、いろんなステークホルダーが関わっています。会社が私物ではなく、社会の公器だというのであれば、会社の出口をどう設定するか、そのためにやらないといけないことは何なのか、責任を果たすことも含めて経営だと思っています」
あるものを残す日本人のDNA
「私は今28歳ですが、通っていた高校の偏差値は39、大学では1単位でも落としたら卒業できないような、誰の模範にもならないような学生でした。そんな私でも周りの助けがあって楽しくやりがいを持って働けています。スキルや能力は必ずしも重要じゃありません。やりたいという思いが『本物』であれば、自分にない能力を補ってくれる人たちが必ず現れます。今の福岡はスタートアップが盛んですが、新しいことをゼロからつくり出すだけじゃなく、今あるものをどう残すかということにも興味を持ってほしいです。それが日本人のDNAに合っている気がするんです。こんな私の姿を見て『自分にもできるかも』と可能性を感じてもらえたら嬉しいです」
第13回解決市場特別講演
カンブリア宮殿出演
吉開のかまぼこ 代表取締役 林田茉優氏
廃業寸前の老舗130年企業を再生
“赤の他人の女子”が起こした奇跡
2026年5月27日(水)11:00~11:50 エルガーラホール8F(福岡市中央区天神1丁目4-1)
廃業寸前だった創業130年の老舗かまぼこ店を、血縁関係がないにもかかわらず、24歳で承継し、見事に復活へと導いた林田茉優氏。 中学高校時代、ブラスバンド一筋だった少女は、どのようにして事業承継のストーリーに巻き込まれていったのか。本講演では、元西日本新聞記者・水山真人氏がモデレーターとして、その決断の背景にある中小企業の現状や、事業承継のリアルを丁寧に聞き出します。 今回の承継のスキームや、技術継承の裏側など、現場で起きていた“本当の話”を掘り下げます。