自衛隊魂、鉄壁のSNS運用が好評
iLETTER社長、梨木由美さん
人の想い伝えるライティングから発展
iLETTER株式会社 代表取締役
梨木由美氏インタビュー
取材 | 元西日本新聞社 日本新聞協会賞受賞記者 水山真人
「国防に関わり、徹底的に規律を叩き込まれました」 佐賀県鳥栖市の高校を卒業後、父と同じ海上自衛隊に進んだiLETTER株式会社(吉野ヶ里町)代表取締役の梨木由美さん(33)は入隊後、想像を超えた厳しい職務で、鉄壁の規律を身に着けた。結婚、出産、離婚を経て7年半の勤務の幕を閉じ、Uターン。地元のWeb制作会社でライターの仕事を任されたことをきっかけに、「人の想いを伝える」面白さに開眼。ライティングスキルを一気に習得し、独立後は、自衛隊仕込みの仕事の確実さからさまざまな依頼が舞い込むようになり、デザインや動画編集に幅を広げていった。2023年に法人化した後は、SNSマーケティングが順調に伸び、九州各地から声がかかるように。元艦艇乗りらしく「水平線の向こうまでいってみたい」
といい、新たな土地、新たな人、新たなPR手法の開拓を追い続ける。
家を出たい一心で入った自衛隊が原点
私は、祖父が陸上自衛官、父と兄も海上自衛官という自衛隊一家に育ちました。父は艦艇勤務で、私が小学生の頃に佐世保で父の乗っている艦艇を見学してアイスを買ってもらったのを今でも覚えています。世界一周を何度も経験した父から話を聞くたびに、「私も練習艦『かしま』に乗って世界一周してみたい!」と憧れ、採用面接でもその夢を話しました。
中学生の時に母が病気になって以来、厳しい祖父母に育てられました。周囲に「両親がいないからチャランポランしている」と言われないよう門限は5時、お泊まりや化粧、ダメージジーンズも厳禁。毎日反抗しながら「どうしても家を出たい」と願っていました。父に「自衛隊なら家を出ていい」と言われ、倍率が高く諦めていたものの、その年はたまたま定員が150人に増え、奇跡的に合格しました。
しかし、入隊後はカルチャーショックの連続でした。最初の半年は横須賀での教育期間です。その2~3日目、消灯後にロッカーから物を取ろうと電気をパチッとつけた瞬間、教官が飛んできて「なんで電気つけてるんだ!」と激怒されました。電気をつけただけなのに、「とんでもないところに来てしまったな」と驚愕しました。4人1部屋でプライベートもなく、土日もランニングをして、門限も夕方。それでも、修業を迎えると、みんなで泣きながら日本全国の部隊に配属となり、かけがえのない青春になりました。その後、女性自衛官として初めて輸送艦の乗組員となりました。女性4人が同時に配属され、私は通信員としてホバークラフト(LCAC)の通信任務を務めました。この経験は、今でも誇りに思っています。
特に海自で叩き込まれた「5分前行動」や徹底した事前準備、確実な「報連相」は、現在のビジネスでも私の確かな武器になっています。海自では5分前行動が鉄則で、下っ端はさらに前から準備をします。民間に出て驚いたのは、事前に準備ができていない人が意外と多いこと。納期を守り、前もって準備することの価値を、身をもって実感しています。
人を動かすライティングに没頭
狭いコミュニティの息苦しさから自衛隊を辞め、地元の佐賀へ戻りました。自衛隊を辞めてからは見るものすべてが新鮮でした。Web制作会社で取材に行ったり、さまざまな経験をさせてもらえ、毎日が本当に刺激的で面白かったです。
そこで任されたのが、Webマガジン「EDITORS SAGA」のライター業務でした。初めて取材した佐賀市内の飲食店で、店主の「想い」を記事にまとめると、「私の思っていることがちゃんと文章になっている」と喜ばれ、記事を読んだ読者も実際にお店に足を運んでくれました。「美味しいから行って」と言わなくても、その人のストーリーや背景、胸にある思いを届ければ人は動く。その面白さに一気に魅了されました。
「気合と根性」でフリーランス開始
その後、子供たちを連れて沖縄へ移住しましたが、激務のため2か月で会社を辞め、フリーランスとして独立しました。当時はライター経験しか武器がありませんでした。「絶対に子供たちを食べさせていく。養えなくなったらすぐに会社員に戻る」という強い覚悟だけでした。プライドは特にありませんでした。好きな言葉は「気合いと根性」です。リビングの電子レンジのすぐ横にパソコンを置き、歯を食いしばって仕事をしてました。稼ぐため、相談された仕事は未経験でも「できます!」と二つ返事で引き受け、デザインやWordPress、動画制作へと仕事の幅を広げました。SNSマーケティングも、人の想いやストーリーを組み立てるライター経験が大きな土台になっています。
「元自衛官」という過去の経歴は伏せていたのですが、仕事を取るために前面に出し始めたのもこの頃です。「自衛隊でした」と言うと相手の食いつきが劇的に違い、仕事に繋がっていきました。まずは興味を持ってもらい、自衛隊仕込みの「納期厳守」や「徹底した準備」で期待以上の成果を返す。この愚直なループが口コミを生み、ついには大手コーヒーチェーンの仕事を受けるまでに信頼を積み重ねていきました。
AI時代でも「人は人に惹かれる」
沖縄で3年活動した後、子どもの学業のことや沖縄でのビジネスの広がりが難しいことを考え、地元佐賀に再びUターンしました。2023年、30歳の誕生日に、iLETTER株式会社を設立しました。地方では「代表取締役」の名刺を出す方が圧倒的に信頼感がありますし、行政など「法人格がないと取引できない」大きなプロジェクトを視野に入れたのです。
その思いが3期目に入って実現しました。佐賀県庁からお声がけいただき、大きなイベントの公式アカウントの運用を任せていただきました。
私たちはこの仕事では、「商品」がないイベントだからこそ、「人を前に出す」手法にこだわりました。県庁の職員さん1人を主人公に立て、イベントの紹介や準備の奮闘ぶりをショートドラマ風に発信し続けたのです。職員さんは当日、来場者から「インスタの人ですよね!」と声をかけられ喜んでいらっしゃいました。
AI時代でも、最終的に選ばれる決め手は、やはり「人」です。私のクライアントさんは素敵な方が多いので、その魅力を伝え、見込み顧客とクライアントさんを繋げるのが私たちの仕事です。そうすれば、ゴールは決めてくださる。それが成果に繋がる。不思議なことに、人は、魅力的な人に惹かれていきます。人の心は動いている。だから夢中になれる。そこはすごい大事にしてます。それは私が「好きな人と仕事したい」というところにも繋がっています。
「水平線の向こう」へ、船乗りの探求心
独立して自分で仕事をするようになって、初めて「仕事が楽しい」と思えました。良くも悪くも反応がストレートに自分に返ってくる。世の中には、色んな働き方があって、どれが正解というわけではないし、嫌だったら辞めればいい。子供たちが将来、仕事を選択する時に視野を広げられるような母親でいたいなと思います。お仕事も楽しくやっているのを見てくれているかなと思います。
今、SNSマーケティングなどのセミナー講師として宮崎や鹿児島など九州各地を巡っています。地方には、良い商品や魅力あふれる人柄があるのに、発信しきれていないもどかしさがあります。少し見せ方を変えるだけで変わります。ITリテラシーを底上げするお手伝いがしたいです。
私は海が大好きで、2人の娘の名前にも「海」の字が入っています。自衛隊時代、大変ではありましたが、艦艇勤務が好きでした。今も常に「あの海の向こうには、一体何があるんだろう?」という気持ちが胸にあります。飽くなき探求心で、新しい人、新しい土地、新しい見せ方を開拓し続け、九州で一番のマーケティング会社を目指して、これからも気合いと根性で突き進んでいきます。
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